エネルギーを大量投入して生物多様性を喪失してしまう近代農業。その解決策として注目される多年生穀物は、毎年耕す必要が無く、環境を再生する食料生産の鍵を握っている。
アトラスの怒り
ダン・オブライエンノーザン・グレートプレーンズは、まるで美しく狂おしい恋人のような、心を打ち砕くかのごとく気ままな愛すべき土地だ。どの季節にもそれぞれの魅力があるが、悲惨な目にあう可能性もある。冬には危険なほど寒くなることがあり、風は数分で肌を凍らせることができる。春は洪水で知られ、夏にはそれらの増水した川が埃へと変わる。訪問するなら秋をお勧めする。葉が色づき、バッファローは太っていて幸せそうで、鳥の数も最高潮に達する。
2013年9月の終わりごろに兄が訪ねてきた。我が家を囲むポプラの葉が黄金色に変わり、日中は穏やかで、夜は涼しい時期だった。私たちはシャイアン川を見下ろすテラスに座ってライチョウ狩りの計画を立てながら道具を整え、猟犬たちはそよ風に鼻をひくひくと動かしていた。天気予報が気温の低下と風の強まりを知らせていたが、私たちは注意を払わず、日暮れには雪が降りはじめた。
私は牧牛地帯に住んでいるが、25年ほど前にバッファローに切り替えた。バッファローは、数千年もの間この草原を歩き回り、過酷なグレートプレーンズの気候に合わせて行動や身体的な特徴を進化させてきた。寒さや暑さ、洪水、干ばつにほとんど影響されない動物になった。我が家の使命は、土地の自然のバランスを回復させることで、目標はまずバッファローだった。2013年までに、家の上の平らな場所に400頭のバッファローを放し飼いし、バッファローはそこで私たちが植え替えた固有種の草を食べていた。バッファローはこの土地の気まぐれな気候に対応できるということを、風がポプラの古木を揺らしはじめるなか私は兄に話した。
翌朝、台所の窓の外でポプラはまだ大きく揺れていて、コーヒーを飲みながら私たちは、このちょっとした悪天候のおかげで挑戦的な狩りになるぞと冗談を言い合っていた。その日は一日中風が吹き、突風に乗って雪も激しくなっていった。翌日、目を覚ますと、木々は雪の重みで曲がり、私たちの冗談は途絶え、やがて木々の枝が折れはじめた。
Photo: Jill O’Brien
我が家から数キロメートル北に住んでいる娘夫婦は、嵐が襲ったとき、ネブラスカ州の夫の実家を訪ねていた。ハイウェイが封鎖されて家に帰れずにいたが、2人には餌を必要とする乳牛や豚、犬、それに納屋に住む数匹の猫がいた。兄と私は家の私道から出かけようとしたが、巨大なポプラの折れた枝が90センチもの吹き溜まりの中で絡まりあい、通り抜けることができなかった。風がうなり、私たちはかろうじて家に戻ることができた。家に入るや否や、明かりが2回点滅してから消えた。その夜は一晩中、暗闇の中に座り、風の音を聞いていた。
翌日、吹き溜まりの深さが180センチまでに達していたが、私はバッファローを信じていた。彼らの遺伝子は、このような戦いをこれまでに経験してきたのだ。隣人たちの牛は、話が違う。近隣の牧場には何千頭もの牛がいた。外部との連絡は一切取れなかったが、これだけの深さの吹き溜まりの中では深刻な死亡数になるだろうということはラジオを聞かなくても分かった。
4日目の朝には、娘の家の動物たちが心配で、居ても立ってもいられなかった。雪は弱まっていたが、風はまだ荒れ狂っていた。兄と私は、とにかく娘たちの家まで歩いて行ってみることにした。それまでに挑戦したどんなハイキングよりも困難なものになった。肺が凍るような北風の中、太ももまで積もった雪をかき分け、2時間も歩いた。動物たちに餌を与え、追い風を受けながら家に戻ろうとしたその時、吹き溜まりの中から、バッファローの黒い角が1本突き出ていることに気付いた。口には出さなかったが、その夜からずっと不安に苛まれていた。
その3日後、ようやく雪をかき分けて外に出てみると、その吹き溜まりに8頭のバッファロー(所有する群れの約2%)が埋まっているのを発見した。気が重くなったが、北に1キロメートルほどの場所で残りの群れが雪の中で穏やかに草を食べている姿に元気づけられた。私たちがどれほど幸運だったか、分かるまでに数日かかった。気象予報士がアトラスと名付けたこの嵐で、群れのすべてを失った隣人もいたのだ。合計で10万頭を超える牛が死んだ。
Photo: Jill O’Brien
翌週、私たちはショベルカーをひっきりなしに動かして隣人たちの動物を埋葬した。最後に埋めたのは私たちのバッファローだった。娘婿がそばに来て、こう言った。「あのバッファローたちのことで不思議なことに気付いた?」 気が沈んでいた私は、雪の上に積まれた土の山を見つめて立ち尽くし、首を横に振った。「どれも年老いたメスだった」と彼は話した。「子供たちはみんな生き延びたよ。死んだのは、オオカミにやられたんだろう」彼は私の肩に手を置くと、ショベルカーに乗り込んだ。「オオカミか」私は暖かいそよ風に呟いた。目を上げると、ホソオライチョウの群れが淡い青空を飛び去って行った。「完璧な世界だ」と、私は思った。