飲み干して取り込もう
バーギット・キャメロン パタゴニア プロビジョンズ、マネージング・ディレクター私たちは少量生産のクラフトビールを醸造しています。グレープフルーツのようなホップの風味と、ドライで爽やかな後味のロング・ルート・ペールエール 、そして、伝統的なベルギー白ビールをアレンジし、コリアンダーとオレンジの皮を加えて製造したロング・ルート・ウィットです。どちらもトップクラスのビールで、ロング・ルート・ペールエールは2019年、アメリカ国内のグッド・フード・アワードを受賞しました。
しかし、真のストーリーはそれぞれの缶に入っている美味しいドリンクのことではありません。ビールを醸造するために調達している穀物についてです。
私たちは何年も前からカーンザについて、そしてウェス・ジャクソンや〈ランド・インスティテュート〉の活動について知っていました。1976年にカンザス州サライナでウェスが設立したこの研究所では、多年生作物を栽培する方法を研究しています。穀物の収穫高と野生植物の生態学的な安定性を組み合わせた画期的なアイデアです。主な食用作物は一年生であり、標準的なビール用穀物の大麦以外にも、小麦やトウモロコシ、米なども一年生です。一年生植物は毎年の植え付けを必要とし、その作業には、炭素と窒素が大気中に放出され、表土が侵食されます。しかし、ほとんどの野生植物は多年生植物で、たくさんの食物を生み出すわけではありませが、毎年同じ場所にとどまり土壌を乱すことはありません。
カーンザは、再生型農業のイメージキャラクターとも呼ぶべき多年生植物です。あごひげのような巨大な根は、長さが12フィート(約3.6メートル)と、通常の小麦の少なくとも2倍に達することがあります。この強力な根が、表土を維持し、数百万もの有益な微生物を育み、大気から炭素を取り込んで地中に封じ込みます。しかもカーンザのほっそりした穀粒には、スパイシーなナッツのような素晴らしい風味があります。
私たちが2013年にウェスや彼のチームと初めて会ったとき、彼らはすでに何十年もカーンザに取り組んでいて、この穀物の大きさや収穫量を向上させていました。彼らは製品の市場への発売はまだ先のことだと考えていましたが、地球を再生させる食物をサポートする事業を展開していた私たちは、カーンザは変化を起こす即戦力であると考えました。この注目すべき植物が発展すれば、他のさまざまな食用穀物も多年生植物に移行する道が開ける可能性があります。そのために私たちができることは何かと考え、大々的に、より広く、そして変化を促したいと思いました。では、そのための最善の方法は?
その答えがビールでした。供給量の限られるカーンザを風味やスパイスとして、醸造の主原料である大麦に組み合わせることができたのです。オレゴン州ポートランドにある〈ホップワークス・アーバン・ブルワリー(HUB)〉が、自然な流れでパートナーになりました。パタゴニアと同じ〈Bコーポレーション〉のメンバーであるHUBは、初めてサーモン・セーフ認証を受けた醸造所で、素晴らしいビールを生産していました。
2016年(日本では2017年)、私たちはカーンザを使用した初めての製品、ロング・ルート・ペールエールを世に出しました。2019年にはロング・ルート・ウィットを発売。どちらも、カーンザの需要を増大させ、より多くの栽培と研究への資金提供につながりましたが、最も素晴らしいことは、カーンザがより大規模に発展していくのを見られたことです。〈ゼネラル・ミルズ〉では、シリアルやその他の用途で使用するために、現在カーンザを栽培しています。また、アメリカ国内およびヨーロッパの農場でもカーンザの栽培地が広がっています。
カーンザは〈ランド・インスティテュート〉の活動の正しさを証明すると私たちは信じています。つまり、多年生植物は、地球を再生させる農法として素晴らしく理にかなっている、ということです。HUBの創設者であり、醸造家のクリスチャン・エッティンガーは、「カーンザが、醸造に使用する他の原材料穀物において、将来性のある議論の道を切り開いてくれることを期待している」と話します。この驚くべき穀物は、人間の食生活の基本である小麦から米まで、あらゆる作物の栽培方法を根本から変化させる推進力となるかもしれません。
ロング・ルート・ビールの缶を開けるとき、それは未来に向けた乾杯となるのです。